死と黒犬の対話

腹をすかした黒犬が死といっしょに歩いていました
黒犬が死にたずねました
「ぼくはもう死ぬんでしようか」
死がそれに答えました
「ああ、たぶんね。わしといっしょに歩いた奴で助かった者は
いないからね」
黒犬がまたたずねました
「でも、ぼくはまだほんの子供なんですよ」
死がうるさそうに答えました
「ああ、それはわかっているよ。でもねきみ、死には大人も、
子供も、金持も、貧乏人もみんな同じなのさ」
黒犬がおずおずとたずねました
「ぼくはいつ死ぬんですか」
死がうさんくさそうに少々腹をたてながら答えました
「まちたまえもうすぐだから」
黒犬はそれっきり何もたずねませんでした

昭和四十一年二月作品

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